interview
フリーのライターとして、デザイナーとして、東京や横浜を中心に活躍してきた岩谷さん。フリーとなってそろそろ二十年を迎えるなか、仙台は八木山の地にホレて家族で移住を決断
しました。そして、住居兼事務所の「行列のできるチラシ屋さん 終日舎」をOPEN。
二人のお子さんを持つ母として、特にママ目線でのデザイン、イラスト、ライティングを得意とする岩谷さんに、在宅ワークが浸透してきつつある今、改めてフリーランスのお仕事についてinterviewしてみました! 仕事と子育て、移住についてのあれこれも♪興味深く面白い、ユルユルテイストのインタビュー、プロフィールに替えて、ぜひご覧あれ~。
--早速なのですが、「終日舎」は、なんと読むのですか?しゅうじつしゃさん、で良いのでしょうか。
「ひもすがらしゃ」が正式名称です。なんですが、読めないので、皆さんからは「しゅうじつしゃさん」って呼ばれることが多いですね。もうそれでいいかな、って。
--いいんですか(笑)、どっちでも。
まあ、そんなにこだわりはないです(笑)。でも、読みにくい屋号って記憶に残るし、名刺交換したとき話題のネタになるんですよ。
--確かに会話のとっかかりになりますね。今もそうですもんね。それにしても終日…二十四時間営業ですか?って思われちゃいそうですが。これは困りませんか?
もともとそういうつもりだったんです。というか、デザインの仕事って早朝でも深夜でも関係なく応対しなくちゃいけないことがほとんどなので、実際二十四時間営業みたいなものなんですよね。そもそも私の場合、デザイナーの前はライター一本でやってたんです。
--今はデザインメインみたいになってますけど、昔はライターさんとして取材とかコラムとかのお仕事をされていたと聞きました。執筆もけっこう徹夜とか多いですよね。
はい。だから二十四時間体制が染みついている、というかもっと巻き戻すと、フリーランスになる前は、大学病院の先生たちや製薬会社の営業の方を対象に、学会スライドの制作をしていたんですよ。
--学会で発表するときのスライドですか?
そうです。パワーポイント使って研究内容をレイアウトしてあげたり、医療系のイラストを描いたりしてました。筋肉組織とか皮膚組織のイラストとか、医療機器なんかの……。
だから、学会時期はまとめが終わっていない先生たちの駆け込み寺になるんですよ。泣きながら「これ、今日中にお願いしたいんです」「これ間に合わないともう僕おしまいです!」って、お医者さんたちがやってくるんですよね……。
--えー!(笑)じゃあその時も二十四時間体制で……。
そう。三日間徹夜とかもありましたよ、職場に泊まり込みみたいになって。私がまだ二十代前半だったっからちょうどジュラ紀?白亜紀?頃の話なんですけど、その頃ってパソコンがようやく浸透しはじめた頃なんですよね。
--白亜紀、ジュラ紀なら人類も浸透してないですよ(笑)!
(笑)。だから、みんな一極集中で。多分その頃、宮城県各地のお医者さんのお手伝いさせていただいてたと思います。もう疲れてこれ以上できない!って駄々こねると、先生たちお医者さんなんで、「大丈夫、ビタミン注射打ってあげる」「点滴すればもう一晩くらい起きてられる」って。
--お医者さんがた(笑)
子供を産んでからはむしろクライアントに理解を求めるスタンスになりました。でも皆さん、子育て優先を応援してくれます。これはフリーランスの強みかな。こんなに理解してもらえると思ってませんでしたね。会社勤めだとお母さんたち、肩身せまいですけど、あれはクライアントの問題じゃなくて仲間意識の問題ですよね。
岩谷さんの住む八木山の事務所兼住居は、仙台市街から車で10分ほどのアクセスでたどり着く。八木山は緑に囲まれた小高い山で、古くからの落ち着いた住宅街。
東北大震災の被害で、実母が八木山に移り住んだことで、横浜から里帰りをするたびに、良い街だと感じるようになったのだとか。
「八木山は環境がすごく良いのだけれど、地域によってはスーパーもカフェもなくてとても不便。だけど、だからといって人がたくさん集まり、便利になってしまうのも複雑な気持ち……」
地域の人たちみんなで子育てしているような、昭和の日本を思わせる雰囲気がいまだ残っているという。
--それは確かに。クライアントより、仲間の顔色を窺っちゃいますよね。また保育園からの呼び出しが……上司に嫌味言われる……みたいな。
働く女性にとってストレスですよね。気を使わなくていい、お互いさま、って感じがあると、みんな働きやすくはなると思うんですが。
--クライアントの要望に寄り添いつつ、いざというときは理解してもらって……。女性の働き方としては理想的ですね!
終日って、ひねもす、ひもすがら、と読みますが、最初から最後まで、という意味もあるんです。だから、クライアントの要望に、お仕事に、最初から最後まで寄り添っていきたい、という気持ちも込めています。相手に合わせた働き方ができて、いざというときには自分の生活や価値観に合わせた働き方もできる。それが、会社勤めと大きく違う点ですね。
--なるほどー。ちなみに、フリーランスとなってから、印象に残っているお仕事はありますか?
どの仕事もすごく面白いし、記憶に残っていますけど、そのなかでも特に印象に残っているのは、横浜時代。個人経営の学習塾さんのデザイン全般を任せていただいたんですが、すごくやりがいがありましたね。そこは姉妹で運営されている塾だったのですが、塾帰りの途中で買い食いする子どもやお迎えのお母さんたちのために、塾×カフェというスタイルを展開していきたいと。
--へぇー!面白いですね、魅力的です。
予算は限られていて、塾の内装も外装も、全部クライアントの手作りなんですよ。ホームセンターで木材を購入してきて、学習塾とカフェのDIY。いろんな人たちがほぼ無償で協力していました。私も面白
い試みだと思ったので、軌道に乗るまでは無償でデザイン方面をサポートしていましたね。
--塾のなかにカフェを併設している感じですか?
二階が塾の教室で、一階がカフェ、という構造でした。イタリアンレストランを経営されているベテランのかたが、飲食の指導から内装などまで、全部協力して指導されていましたね。いろんな人が集まって楽しかったです。
--岩谷さんはデザインのみ担当?
最初はそうでした。学習塾のチラシのイメージって固定化されてるんですよね。メガホン持った制服姿の女の子が採用されてることが多いです(笑)。イメージカラーは紺色が多くて。
--あ、なんかわかりますね……。
でも、塾×CAFEという、それまであまりないスタイルでしたから、お母さんたちに知ってほしくて、学習塾のイメージは入れず、カフェのイメージに寄せて作ったんです。そしたら、今の言い方で言えばバズった。カフェができるんだー、と思って手に取ってみたら、あれ?塾もあるの?みたいな。けっこう面白がられて、チラシもかなり持って行ってもらえましたし、カフェは地域のかたもたくさんきてくださった。そのうち、HPも作らなきゃ、名刺も作らなきゃ、カフェのメニューも……といろいろ作り始めて。
--ああ、楽しそう。
すごく楽しかったですよ。カフェの前に出す黒板アートもさせていただいたし、カフェのインテリアも任せてもらいました。そこはプロじゃないので、堂々とお見せできる代物ではないですが。
横浜で手掛けた学習塾のデザイン制作物。学習塾とは思えぬかわいらしいイメージは、ママ向けイベントの打ち出しも活発だったからだそう! こちらの学習塾では、手作り雑貨のフリーマーケットなども、頻繁にされていたのだとか。
現在はカフェは閉鎖。新たに、発達障害児童の受け入れ、サポートを開始し、学習塾とともに放課後等デイサービス事業に取り組んでいるそうです。WEBサイトも岩谷さんがデザインしています。
NPO法人総合教育サポート グレースファミリエ HOME | gracefamilie
--いわばデザインコンサルみたいな立場でサポートされていたのでしょうか。
そんな大げさなものではないです! ただ、私も子供を持つママなので、やはりママ目線でのデザイン提案は強みだと思っています。お母さんならどこを気にして購入を決めるか、とか。お母さんならどんなサービスがうれしいか、とか。そういう視点をからめていけるのがお母さんになったデザイナーの強いところではありますね。
--岩谷さん、以前ぽろっとおっしゃってましたけど、結局財布をにぎってるのはお母さんたちだから、と。その言葉を私、すごく覚えてるんですよ。
(笑)そうですよ。男性をターゲットにする商品やサービスも、結局お金を出すのは女性ですからね。家庭の財布はお母さんが預かってるわけなので、お母さんが納得しないとどこもお金は出してくれないでしょう。
--世の中の経済はお母さんを無視しては成り立たない。
例えば、飲食店で大成功した会社が、今度は赤ちゃんグッズを売りたい、というケースがありました。そこではインスタを使って映える画像で商品をヒットさせていたんですが、赤ちゃんグッズのほうは、同じ手法で展開しても全然反応がない。なんでだろう?ということで見せていただいたら……。たとえばそこで扱ってる歯ブラシなんかは、可愛くて今までにない斬新なデザインで、画像もすごく素敵なんですよ。確かに映える!
でも、歯ブラシって子供がじかに口に入れるものじゃないですか。斬新なデザインでカラフルでかわいいけど、どんなふうに使うの? 口に入れたときどんな感じ? 安全なものを使ってるの? 怪我しない? ……という、一番お母さんが気になる部分
に、全く触れられていない。
商品のかわいい画像だけが、かわいい角度で撮影されてUPされているだけなんです。
--へぇー! 確かに、私もちっこいのを育ててますが、購入するときはいろいろ気にして調べますね。
その企業は男性中心で、女性は未婚のかたが多いんです。若い企業なんですよね。飲食の場合は、食欲をそそる画像やかわいい、映える画像があればある程度の反響は得られるんですけど。子供グッズとかになると、見せ方、訴え方は変えていかなくちゃならない。ママ目線が欠落していて反響が少なかったんです。
--かわいいだけ、おしゃれなだけ、じゃダメなんですね~……
デザインって、センスがいいだけでは反応につながらないのかな、って思います。でもそれがすごく難しいんですよね。私も、すごくいいデザインができた!と思ったのに、集客につながらなかった……というのはいくらでも経験あります。日々学習、研究ですね~。
--横浜時代のお話をお伺いしましたが、現在は仙台ですよね。仙台でのお仕事で印象に残っているものはありますか?
実は、仕事は全国からのご依頼があるのですが、地元仙台のお仕事はあまり手掛けたことがないんです。ネットで外部に発注、ということを、保守的な仙台のかたたちはあまりやりたがらないですね。
-おお、そうなんですか? 岩谷さんの場合窓口がオンライン中心ですもんね。全国からお仕事が来るということですが、やはり関東が中心になります?
北は北海道、南は沖縄まで、全国から依頼がくるそうです。一昔前までは、地域密着でなければどんなお仕事も難しかったはず……。「フランスやハワイ、中国、台湾からの依頼もありますよ」とのこと!ネットでの受注は、活躍の場を世界にまで広げてくれるのですね~。
終日舎の場合、不思議と、埼玉、千葉、名古屋、大分あたりからの依頼が多いですね。特に埼玉からの依頼はすごく多いですよ。なぜかはわからないですが……。
--へぇー。地域性、とかもあるんでしょうかね?仙台からの依頼は少ない?
少ないですよ。知り合いになった方たちからの依頼は増えてきましたけどね。インスタで、近隣の方から声がかかるようになっています。でもネットからの依頼は全くないです。
--面白いですね(笑)
ええ(笑)。フリーのデザイナーというのがまだまだ少ないのかも。みなさん大手のデザイン会社か、知り合いのデザインが得意な人に頼んだり、自分で悪戦苦闘して作ったりしていますね。
こっちに引っ越してきて四年ほど経ち、お母さん同士のお付き合いが増えるとともに、少しずつまわりに認知されて依頼が増えてきました。私もあまり地元で営業していないので、まあ当然のことではあるのですが。インスタも、忙しくてずっと触れていなかったのですが、最近になって初めて見たら、まあそこから声がかかることが多い。地元のお仕事はインスタからがほとんどかな。
--仙台では、代表的なお仕事として、「仙臺まちなかシアター」のデザインがありますね。
はい。在仙俳優さんたちと、仙台市内の素敵な飲食店さんたちがコラボして、お店を劇場とする朗読劇のイベントがあるんです。すごく素敵な試みなんですよ。お食事しながら、プロのかたたちのお芝居が観れる! 仙台の新たなイベントとして浸透してほしいと考えながら、毎回頑張ってデザインをしています。
--お店の中で食事しながらお芝居を観劇できるって、新しいですよね!仙台は、ジャズフェスが有名ですが、お芝居の文化が広がっていくのは魅力的です。
劇都仙台、と言われるようになってほしいですね~。仙台は文化が遅れていると言われていますからね……。芸術がなかなか花開かない……。まちなかシアターの情宣デザインを任されるようになって、演劇関連のデザインが増えました。とてもありがたいことで、毎回声をかけていただいて感謝しています。私自身も、まちなかシアターのデザインは、かなり気に入っています。評判も良くて、この仕事をきっかけに、かなり地元のかたからの依頼が増えました。
--行列のできるチラシ屋さん、というキャッチコピーに偽りなし、ですね。もっといろいろ伺いたいところですが、時間になりましたのでこのあたりで終了とさせていただきます。
ありがとうございました。最後に、デザインを頼みたいと考えている皆さんにメッセージをお願いします。
はい。チラシや名刺、各種デザインのことでお悩みのかたは、ぜひ気軽に声をかけてください。デザイン会社のように、がっちりシステマチックな形ではないので、緊張せず問い合わせていただければと思います。
何から始めていいのかわからない、とおっしゃるお客様も多いですが、声をかけていただければこちらでしっかり流れを説明しつつ、進めていきます。
堅苦しいのが苦手な私なので、ご近所の人とおしゃべりする感覚で相談していただければと思います。
近隣の方は打ち合わせでどこにでも出張いたしますので、よろしくお願い致します~。
地元仙台での知名度を底上げするきっかけとなった、演劇関連のフライヤー。主催する「東北えびす」さんは、演劇事業として素敵なプロデュース作品を通年、企画・開催されています。WEBサイトも岩谷さんがデザインしています。